狼と香辛料

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

 これは奇妙な作品だ。牧神の跋扈するファンタジー世界で、商人である主人公が「商売」という行動基準に則り行動するさまが、ややクールな視点で語られる。物語る視点は俯瞰気味なのだが、「商売」に対する主人公のポリシーに関する心理描写は執念深いほどの情熱をもって描かれているように思えるのも面白い。また、この独特の牧歌的な物語世界、というよりは、物語世界へのスタンスにも注目したい。昔話や民話などに感じられる「決してその世界には手が届かない」という「遠さ」の印象、ベールの向こうに物語を覗き見る感覚、この作品には不思議とそんなスタンスが感じられた。その距離感で思い出した作家がいる、ダンセイニだ。作者はこの作品がデビュー作らしいが、個人的に次回作には寂寥感のあるファンタジーを期待したい。
 一人称「わっち」には個人的にこれまでいい印象がなったのだが、本作ヒロイン「ホロ」のおかげで克服できたカンジ。「わっち」で「ありんす」で「くりゃれ?」ってのは花魁言葉なのかな?