「ぼくと魔女式アポカリプス」

ぼくと魔女式アポカリプス (電撃文庫)

ぼくと魔女式アポカリプス (電撃文庫)

 猥雑と混濁に塗れた行き止まりの完成形。
 「タイプムーン以降のエロゲ」「少年ジャンプ」「いわゆる電撃文庫らしさ」――そこかしこで(時にさまざまな思惑をもって)語られるこれらの単語を含む三題噺だが、そのひとつの完成形がここにはある。これは素晴らしい。先日も書いたが、昨年一年でおよそ90冊のラノベを読んだ。おそらく今年もそこそこは読むと思うのだが、早々と2006年度のベストワンにめぐり合ってしまったのかもしれない。
 しわがれた魔女の哄笑が響く真っ暗なトンネルの中を時速400キロで疾走するジェットコースターの先端に括り付けられながときおり現れる錆びた金属片や針金に体を削りとられていくような読書感に痛々しくも目が離せない。読み始めの時点ではガジェットなどいかにも狙ってます感がありありと感じられて、思わず「あぁそうゆうのをやりたいのね」などと斜にかまえてしまうのだが、そのあざといくらい周到に用意されたえぐさがあればこそ描きだせるテンションに、気がつけば引き込まれている。そういえばここで感じたある種の「うす汚さ」はかつてエロゲというメディアが積極的に描こうとしていたテーマであった。このような作品が「退屈な授業中にこっそり読めるイケナイ本」の選択肢のひとつとして加わったのは歓迎すべき非常事態だと思われる。作者の作品は初めて読んだのだが、彼の「読者を縦横無尽に振り回してやる」という乱暴な企みは、あまりにも用意周到に設計され、高い精度で完成している。最後まで純粋に作品を楽しめつつ、さらに、ライトノベルというジャンルの中で何か新しい事が始まろうとしているという予感を感じさせる一冊だ。逆の見方をすれば、この高い完成度は「進化の袋小路」とも言えるレベルに達していると思う。
 今年はまずこの作品を超えるものを探していくことにしよう。