マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮 (ハヤカワ文庫JA)

どんなもんかと手を出してみたものすごーく久しぶりのハヤカワSF。たぶんタイムクエイク―時震以来。
中学の頃はハヤカワ青背表紙をかなりの数読んだような気がするんだけれど、最近はすっかりラノベばっかりなので、始めのほうは小説作法の違いにやや戸惑ってしまった。例えば「粉末は多幸剤だった。(中略)そこでショッピングする者たちの大半は、この薬を買って帰った。(中略)だが街の東西を問わず、この薬を飲む者の中で幸福感がどういうものかを知る人間は少なかった。」このようなマクロで洒脱な語り口はラノベには存在しない手法だ。これは物語る視点の位置の違いからくるもので、久々に読むSF的視点のテキストは非常にクールかつスタイリッシュで楽しめた。
本書は「超人的な力を手に入れた少女娼婦が、万能兵器だけど見た目は金色のネズミな相棒と繰り広げる復習劇」。改めてそうやって書くと、ガジェットはサイバーパンクだけど構造としてはむしろスペオペとかに近いスタンスなのだと気づかされる。ただ、手触りとしてはあくまでスタイリッシュ、わざわざ翻訳風に書きおこしてあるリズミカルで心地よいテキストはかなり魅力的だ。アタマ沸いてるド変態さんがいっぱい出てくるのも個人的にポイント高し。